【婚活小説】 涙のお見合いパーティー

第4話 恋愛気分

「桃代さんって漫画家でしょ?」40歳キモオタがしつこく問い詰めてくる。
「違います」
「隠さなくてもいいじゃないですか。漫画家のしだれ桃代さんでしょ?」
まわりに聞かれていないか不安になる。
変に注目を集めたくはない。

「今回は取材ですか?桃代さん今度恋愛ものに挑戦するんでしょ?」
40歳キモオタはろくに料理の手伝いもせずに、
桃代の正体暴きにやっきになっていた。
桃代が今度恋愛漫画を書くことを知ってるようだ。
そういえば雑誌に告知が載っていた。

「捗ってますか取材は?ボクでよければインタビューを受けますよ」
桃代はキモオタを無視して具材を炒めた。
フライパン上で材料がチリチリ鳴り、
キモオタを声をかき消してくれる。

斜め向かいは典子ちゃんのキッチンだった。
ちょうど吉川さんが回って来ていた。
しかし2人は無言だった。
典子ちゃんはかなり緊張しているようで、
上手く会話出来ていない感じだ。

そのまま2人の様子をうかがったが、
一言も言葉を交わさず、黙々と料理を続けるだけだった。
典子ちゃんは緊張のあまりか、
顔色が良くなかった。

「これお願いします」桃代はフライパンをキモオタに預けた。
「え、これどうするの?」
「焦げないように振っていてください」
桃代はフライパンを任せ、典子ちゃんのところへ向かった。

無言で料理をしてる2人の間に割って入るようにして、
声をかける。
「あ、上手に出来てるじゃん」
典子は振り返り驚いたように表情を見せた。
近くで見ると顔色の悪さがさらにはっきりわかった。
汗もかいてるし、メガネもちょっとズレている。

「典子ちゃんはお料理が得意なんですよ」吉川さんに教えてあげた。
「そうなんですか?」
「会社で昼休みに食べるお弁当も、毎朝自分で作ってるんです」
さっき典子から聞いた話をそのまま吉川さんに伝えた。
「すごいですね。朝たいへんじゃないですか?」
「いえ、それほどでも」
か細い声で典子ちゃんが答えた。
声が少し震えている。
よほど緊張しているのだろう。

「朝何時に起きるんですか?」
「6時ぐらいです」
「お弁当を作ってて会社に遅れたりしませんか?」
「大丈夫です・・・その、つまり・・・」典子は言葉が上手く出てこないようだった。
「職場が近いんだよ。」桃代が言った。「典子ちゃんは会社のそばに部屋を借りているんです」
「それなら安心ですね」吉川さんが微笑んだ。
なんとか2人の会話が流れだした。
典子ちゃんはたまに返答に詰まるけど、
そのときは桃代が助け舟を出してあげた。

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料理が完成すると、ついに食事だ。
席は自由に移動していいようだ。
この食事の時間がフリータイムを兼ねているらしい。

フリータイムが始まったが、
例によって席を立って移動するのは男性参加者ばかりだ。
お見合いパーティーはどこもこのような感じなのだろう。

仕方がないので桃代もその慣例に従った。

どのテーブルに行こうか迷っている男性が多かった。
迷っているというより、恥ずかしがっているように見えた。
こうしたパーティーに参加する男性というのは、
基本的に奥手な人が多いみたいだ。
ひととおり会話してみてそう感じた。
だからこそ婚期が遅れてしまっているのだろう。

吉川さんも少し照れた感じであたりを見渡していた。
しかし意を決したように歩き出し、
桃代の方へ向かってきた。

本当にこっちに向かって来ているのか半信半疑だったけど、
吉川さんはまっすぐ桃代の方にやってきて、
桃代のテーブルの前で立ち止まった。
目が合うと背中に電流が走り抜けた。

これこそ恋だ。

桃代は実感した。
どちらかというと冷めた性格で、
恋愛とか男とは距離を置いて生きてきた。
でもそんな自分の心が今ふるえている。

吉川さんは桃代のテーブルに座った。
桃代は何か言おうとしかけど、
ドキドキして頭が正常に回らなかった。
典子ちゃんもきっとこんな心理状態だったのだろう。
心が大きくかき乱されているという実感があった。

最初は緊張感が抜けなかったけど、
食事をしながらのフリータイムだったので、
すぐに気持ちはほぐれてきた。

仕事のこととか休日の過ごし方などを話しながら、
吉川さんとパスタを食べた。
まるでデートだった。
30歳にしてはじめて青春を味わっていた。

吉川さんは誠実そうな人だった。
ちょっとシャイなのかもしれないが、
でも恋愛経験ゼロの桃代にとっては接しやすい相手だった。
はじめて付き合わう相手としてはベストに思える。

「桃代さんってやさしいんですね」
「そうですか?」
「友達想いじゃないですか。さっきも友達を助けに来てた」
「典子ちゃんが困ってるようだったから」
吉川さんはあの出来事で自分を気に入ってくれたのだろうか?

「実はボク来週のパーティーも申し込んじゃったんですよ。ここのお料理パーティーは人気があって、早めに申し込まないと予約が取れないから」
「そんなに人気があるんですか」
「男性には人気のパーティーですよ。すぐに定員が埋まってしまう。だからつい2週連続で予約してしまいました。でも来週は参加するのやめようかな」
「どうしてですか?」
吉川は何も答えなかった。
代わりに桃代を見つめた。
目を合わせていられなくて、桃代はすぐにうつむいてしまった。
起きている出来事に信じられない気持ちだった。
自分はこれまで男性と付き合ったこともないし、
モテたこともないのだ。
それなのにこんなことが起きるなんて。

そうやっていると、
司会者から席替えの指示がかかった。
「食後のティータイムは別の人と話すようにしてください」
司会者が言うと、男性陣は席の移動を開始した。

吉川さんもお礼を言って立ち上がり、
歩いて行った。
ずっと吉川さんと話していたかったが、
そうもいかない。
これはお見合いパーティーなのだ。

でも別の男性が来たとしても、
もう自分は吉川さんのことしか考えられそうになかった。
余韻と呼ぶには強すぎる想いが胸から消えなかった。

つい目で吉川さんを追ってしまう。
見ていると吉川さんは典子ちゃんのテーブルに座ろうとしていた。
少し嫉妬のような気持ちが立ち昇った。


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