【婚活小説】2度と結婚情報サービスなんて

第5話 写真を見て感じたこと

オーネットに入会して以来、
会報誌を眺めるのが美穂の日課になっていた。

お風呂から上がるとテレビを付けてソファーに腰掛ける。
冷蔵庫で冷やしておいたヨーグルトドリンクを飲みながら、
オーネットの会報誌に目を通す。

テレビではお笑い番組が放送されている。
でも美穂は一度も顔を上げなかった。
テレビには興味がなかった。
音が出ていればそれでいいのだ。
無音だとなんだか淋しい。

会報誌の中で美穂が一番じっくり見るのは、
新会員の情報だった。
詳しいプロフィールは載っていないし、
写真も載ってはいなけど、
一言コメントみたいなものが添えられていて、
そこからどんな人か想像するのが楽しい。

たくさんの会員が紹介されているが、
その中で美穂が気になっているのは、
35歳のスポーツマン。
1歳年下ではあるが、芯のしっかりしていそうな人だ。
添えられた150文字ほどの自己紹介文には、
仕事の後スポーツジムに通っていることが書かれていた。

この人に申し込みをしてみようか。

美穂は悩んでいた。
しかし勇気が出ない。
理由はいくつかあった。

まず、写真が載ってないから顔をわからないこと。
もし自分のイメージと全然違う人だったらどうしよう。

次に、オーネットでまだ誰にも申し込んだことがなく、
慣れていないことから来る不安もあった。

恋愛に対して臆病な面も影響してるだろう。
4年間交際していた彼氏に裏切られ、
男性不信になってる部分がある。
表面上はよく見えても、腹の底では何を考えているかわからない。
美穂は当時の恋人といずれ結婚するのだと当たり前のように思っていた。
でもそうではなかった。
人間には得体のしれない裏の顔があることを学んだ。

35歳スポーツマンの彼にもそうした裏表があると思うと、
なんだか怖くて近づけない。

近いうちオリエンテーションなるものが行われる。
オーネットの利用の仕方の説明会みたいなものだ。
そのとき店舗を訪れるので、
ついでに専用端末で35歳スポーツマンの写真を確認しよう。
申し込むのはそれからでも遅くはないだろう。

会報誌をパラパラめくると新会員とは別に
注目会員紹介みたいな感じで、
何人かの会員情報が載っているページがある。
そこには新会員とは違って写真付きで紹介されている人もいる。

その中のひとりに39歳歯科医師がいる。
外見も悪くないのでその人に申し込んでもいいのだが、
でもやっぱり勇気が出ない。

写真で顔がわかっていてもダメなものはダメだ。
オリエンテーションのとき35歳スポーツマンの写真を確認したとしても、
はたして申し込む勇気が湧くかどうかは怪しいところだ。

本当は遠藤に相談してみたいところだが、
あれから遠藤はまったく連絡をくれない。
入会前に思っていた感じとはどうも違う。
気軽に相談事などできそうな雰囲気ではなかった。

logo

オリエンテーションには美穂以外に10人ほど参加者がいた。
全員女性だ。
男女分けて開催しているらしい。

入会時に聞いたオーネットのシステムのおさらいのような内容で、
あまり役立つようなものではなかった。
パソコンなどを使いこなせない人にはいいのかもしれない。
ホームページの使い方がわからない参加者がひとりいて、
何度かホームページについての質問をしていた。

1時間ほどでオリエンテーションは終了した。
帰る人も2人~3人いたが、
ほとんどの人は残っていた。
その人たちも来たついでに写真を閲覧して帰るようだ。

写真閲覧用のコーナーみたいなのが店舗の隅にあり、
他とはパーティションで仕切られている。
写真を見るときはスマホなどを持ち込んではいけなかった。
こっそり撮影する人もいるのだろう。
警戒は厳重だ。
外部に自分の写真が漏れないという点では確かに安心感がある。

その端末を操作するのははじめてだったけど、
ほとんどパソコンと同じなので、
操作には戸惑わなかった。
年齢や住んでいる所などの条件を入力して、
希望の会員を絞込み検索が出来る。

説明を聞きに行ったときに
遠藤が見せてくれたサンプル検索と似たような感じだった。

東京近郊の35歳~39歳の会員を探してみた。
写真付きで男性会員がずらりと出てきた。
いつもは写真なしの会報誌を眺めていたので、
写真で選べることに軽い興奮をおぼえた。

しかしのんびりはしてられない。
写真閲覧には時間制限があった。
ひとり1時間という決まりがあるのだ。

ひとりひとりをじっくり見ていくと1時間などあっという間なので、
気になる人だけをチェックするようにした。

写真を見ていくにつれ、
最初の興奮はどんどん冷めていった。
写真で見るかぎりどの男性会員にも魅力を感じない。
モテたことがない感じの人ばかりではないか。
35歳~39歳までの人に絞っているはずなのに、
どう見ても40代にしか見えないような老けた人が多い。
30代に見える人でも太っていたり、
顔がイマイチだったり。

35歳スポーツマンの写真も見つけた。
でも45歳ぐらいに見えた。
老眼鏡のようなメガネをしており、
スポーツマンとはほど遠い容姿だ。
どちらかというとヲタクっぽい。

すべての男性を見終わると、
失望感が胸いっぱいに広がった。
結婚したいと思えるような男性がひとりもいない。

時間はまだ半分以上残っていた。

写真の閲覧が終わると美穂はスタッフの女性に声をかけ、
遠藤に相談したいことがあると伝えた。
美穂は混乱していた。
これからどうやって活動していけばいいのかわからなかった。
「面談のご予約は取ってますか?」
「予約はないですけど遠藤さんとどうしてもお話ししたいんです。少しの時間でもいいので呼んでいただけませんか?」
「ご予約のない方は・・・」
「ほんの10分でいいんです」美穂はつい語気を荒らげてしまった。
店舗に来ている他の会員たちが美穂に注目する。

「少々お待ちください」スタッフの女性は事務所の奥へ引っ込んだ。
美穂は近くの椅子に座って待つことにした。
まだ美穂を見ている人が何人かいた。

5分でも3分でもよかった。
今の気持ちを遠藤に聞いてもらいたかった。
何でもいいからアドバイスが欲しかった。
このまま家に帰ってひとりで考えても、
何もいい考えは浮かびそうにない。

スタッフが戻っできた。
「遠藤は来客中につき今日はお時間が取れないそうです」
申し訳なさそうにそう言った。
少し怯えているようにも見えた。
「ご予約がないとお会いできないので、次からは事前にご予約いただき・・・」
言葉の途中で美穂は店舗をあとにした。
もう何もかもやめてしまおうと思った。


次のページ ⇒ 第6話 インGバブル